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『日本の死活問題~国際法・国連・軍隊の真実』の発売に先立ちまして、著者の色摩力夫先生に本書の周辺についての興味深いお話をシリーズでお届けしています。

第2回は、「戦争のパラダイムは変わった」と主張する、ルパート・スミスについてです。
相次ぐテロはその主張を裏付けているかのようです。とても怖いことですが、日本が無関係だとは限りません。

 

色摩力夫(しかま・りきを) 評論家、元チリ大使。外交官として9カ国に赴任し、20年以上を海外で過ごす。戦時国際法の第一人者。著書に『新戦争論(小室直樹氏との共著)』『国家権力の解剖』『国民のための戦争と平和の法(小室直樹氏との共著)』『国際連合という神話』など多数。

 

戦争のパラダイムが変わった?

 

──『日本の死活問題』には、イギリスの軍人、ジェネラル・サー・ルパート・スミスが何度も登場します。

 

彼は「知性高き軍人」と言われたイギリス人ですが、軍事学の分野に「パラダイム」の考えを取り入れたところがすごいんです。

2005年に” The Utility of Force”(軍事力の効用)という名著を出していて、この中で、戦争はそれまでの「国家間工業戦争」というパラダイムから新たな段階「民衆の中での武力紛争」というパラダイムに入ったとの見方を示したわけです。

 

──色摩先生の言葉で表現すれば、「私たちの生活の場が戦場になる」わけですね。これはとても怖い指摘です。

 

今や頻繁に起きつつあるIS(イスラミック・ステイト)によるテロはその典型です。
欧米にはそうした不安が確実に広がってきています。彼の予測は的中したわけです。
ただし、国家間の戦争がなくなったわけではないことをひとこと申し添えておきます。

 

──自分が住んでいるところが戦場になるなんて、想像しにくいのですが、日本には北朝鮮の工作員が入り込んでいるとも言われていますし、朝鮮半島で事が起きた場合、テロが起きないもと限らない。いざとなったときの備えは必要ですね。

 

テロとかゲリラはどこで起きるか分からないものです。すると、われわれ一人ひとりが対応を迫られることになります。

場合によっては反撃することもあるでしょう。そのとき、戦時法規(国際法の一部で戦闘におけるルール)の知識が必要になるのです。

 

平和国家を目指す国ほど戦時法規の普及に熱心

 

──戦時法規は軍隊だけでなく民間人にも摘要されるというのは、一般人の多くが意外に思われるでしょうね。

 

世界を見渡すと平和国家を目指す国ほど戦時法規の普及に熱心だという事実があるのです。スイス、オランダ、スウェーデンなどの、いわゆる小国がそうです。

 

小国は、大国間の戦争を防止することができないため、しばしばこれに巻き込まれてきました。大国の侵略に国土と国民をさらすことにならざるを得なかった。いつも自国の領土内で、外国の軍隊に抵抗するほかなかったわけです。

 

そこで、損害を最小限に食い止めるためには、国際社会における戦時法規の立法推進に積極的に貢献し、自国民に対しては、戦時法規の普及、つまり教育を徹底しておく必要があったのです。日本も平和国家を標榜するなら、最低限の戦時法規は学んでおくべきです。

 

──テロの場合、相手は戦時法規など頭にないと思うのですが、それでも知識は必要なわけですね。

 

知識がなければ、それがテロであるかさえ分からないでしょう。

戦闘にはルールがあり、それを破った場合、軍法会議にかけられたりして罪に問われないともかぎらない。

ですから、知識はあったほうがいいのです。

日本は、1949年のジュネーヴ四条約を批准しています。ここには、戦時法規を自国に普及するための教育をほどこすことを謳っていますが、日本の教育現場ではいっさいなされていません。これは政府の怠慢以外の何ものでもありません。

 

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日本が戦争に負けたのはパラダイムの変化に気づかなかったから

 

──ルパート・スミスの戦争のパラダイムに話を戻しますと、先生は、日本の敗戦の原因を戦争のパラダイムの変化に気づかなかったからだと指摘されていますね。

 

会戦主義・決戦主義のままでいた日本は、緒戦で大打撃を与えれば、アメリカが和平交渉に求めてくると考えた。これが日本の戦略的誤算でした。

 

ところが、アメリカは緒戦でやられても平気で、長期戦に持ち込めば勝てるという考えを持っていたため、いっこうに交渉を求めてこなかったのです。アメリカは工業力の規模や持続力を想像以上に蓄えていたのです。

 

日本は、アメリカが「国家間工業戦争」のパラダイムに入っていたのに、それに気づかなかった。日本は「近代初期の戦争」のパラダイムのままで日米戦争に突入してしまったわけです。

 

歴史のものさし、巨視的な視点に立つ

 

──色摩先生のお話を伺うと、これまで無意識に形成されてきた自分の中での常識がくつがえされ、視野が広がっていくように感じるんです。先生はいつもどのような勉強をされているのですか?

 

私が傾倒し、物の見方を教わったのは、スペインの哲学者ホセ・オルテガ・イ・ガセットです。

教わったと言っても、あの平田篤胤にあやかって言えば「没後の門人」なのです。

私がスペインに留学したとき、到着して一カ月も経たないうちに亡くなってしまわれた。(註:色摩先生はその後、オルテガの研究を続け、スペイン語版の“ORTEGA”、日本語版では中公新書『オルテガ』を上梓されています)

 

クラウゼヴィッツの”Vom Kriege(戦争論)”も理論的な部分は原書で読みましたが、非常に刺激を受けました。

彼等は戦争の定義をしたことで有名ですが、共通するのは、歴史によく学び、社会というものの現実を見据えて、独自の文明哲学に集約させたことです。

日本語版が出ているので、ぜひ読んでほしいですね。

 

──ちなみに、今読んでらっしゃるものは?

 

ユヴァル・ノア・ハラリの“Homo Deus A Brief History of Tomorrow”(ホモデウス 明日の歴史)。

これは、日本でも話題になっている『サピエンス全史』の続編です。

 

 サピエンス全史

 

──『サピエンス全史』は邦訳があり、いま書店に行くと、どんと積まれていますよ。話題の書のひとつです。

 

『サピエンス全史』は私自身、これほどスケールの大きい本は見たことはありません。

どこがすごいというと、歴史の把握の仕方が巨視的なのです。これには舌を巻きます。

 

本書は、人類の元祖「ネアンデルタール人」がアフリカから中東あたりに渡ってきたところから始まります。

有史以前からの歴史を分析したのは前代未聞ではないでしょうか。彼は、その長い人類の歴史を、認知革命、農業革命、科学革命の3つの柱で読み解いていったのです。

 

その続きが、「ホモデウス 明日の歴史」(邦訳はありません)で、今度は人類の未来はどうなるかを考察しているのですが、読み始めたばかりなので、まだ分かりませんね。

 

──人類の歴史を巨視的に捉えた人が、人類の未来をどう予測するのか、読了されたら、ぜひお聞かせください。

今日は、ありがとうございました。(聞き手・良本和惠)

 

 

『日本の死活問題』には海外の戦略家の視点がいくつも紹介されています。

また、第一部「戦時国際法と日本の敗戦」では、国際法の観点から一般に知られていない驚くべき事実を紹介しています。

日本の死活問題カバー

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本書の発売日は6月7日です。全国の書店には6月9日あたりから順次並び始めます。amazonでもご注文できます。

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