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今年の秋に放送されたテレビドラマ『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』をご覧になりましたか?

出版業界からは賛否両論あったようですが、主役の石原さとみさん人気によって校正の仕事が注目を浴びたことを業界の人間として嬉しく思います。

 

校閲ガールって?

 

「校閲ガール」という呼び方は、耳にしたことがないので、テレビ局の造語かと思います。

出版業界では「校正者」といいますが、私の知る範囲では、ガールというより、ほとんどが男性で、しかもけっこう年配のおじさまたち。たいていフリーでやっていました。

なので校閲ガールと聞いたときはぴんとこなかったのですが、女性誌の校正者は女性が多いのかも知れません。

 

単行本の場合は、たいてい一人の校正者にお願いし、雑誌の場合は、数名の校正者にお願いします。

責了前には編集者と校正者が一緒に「誤植を見逃すまじ」と真剣にゲラに向き合います。
雑誌は発刊日を遅らせるわけにはいかないので、徹夜作業になることもしばしば。タバコの煙がただよう部屋でおじさんたちと夜中に校正をした頃が懐かしいです。

 

私の知っている校正者さんたちは、文芸に強い人、歴史に強い人、誤字脱字は絶対に見逃さない人とそれぞれに強みを持っていて、
一度質問をしようものなら、ずっとしゃべる続けるぐらいの知識量にはいつも驚かされていました。

 

 校正と校閲、どんな違いがあるのか

 

校閲と校正、仕事の中身に違いがあるのかというと、あるとも言えるし、ないとも言える。

広い意味では校閲は校正の中に入りますし、狭い意味で言うと、

「校閲」は、文章内容の整合性や内容の裏取り、年代表記や固有名詞の間違いの指摘などを、

「校正」は誤字や脱字、表記の統一を指すかと思います。

これはおそらく、かつて紙原稿から活字や写植に起こしていく時代に、その作業で出た誤植探しを校正、それ以外の内容上の問題点を校閲といったことから来ていると思われます。

 

校正者の仕事はゲラになってから始まる

 

だけど、原稿の整合性や事実確認といった仕事は本来編集者の仕事でもあります。

著者からいただいた原稿を、編集者は全体に目を通し、内容や流れに問題がないことを確認したら、原稿整理と言って、細かい表現の問題や事実確認、裏取りを行っていきます。校閲と同じ作業です。

なぜここで校正者がやらないかというと、校正者の仕事は、ゲラを読むことから始まるからです。

ゲラとは、本文の体裁に合わせて組版した状態の紙をいいます。

編集者は原稿用紙に赤ペンで赤入れし、校正者はゲラに赤ペンで赤入れしたのです。

 

今はほとんどがワープロ原稿なので編集者はワープロ上で作業しますが、校正者は本文と同じ体裁に組まれた紙のゲラに赤字を入れていきます。
編集者どちらかというと大きな問題を拾っていきますが、校正者は細かい部分をしっかりと確認していきます。

 

ゲラの見本

ある歌集のゲラ

 

校閲の苦労話

 

私の経験では、歴史小説の校閲が一番大変でした。武士や姫様の名前が年齢によって変化するので、それを確かめるのに図書館で何冊もの史料に当たったことが思い出されます。

 

それから、ある英文の外交文書を巻末に入れたときのこと。大学の研究サイトから引っ張ってきて原稿を作成したのですが、最終段階で外交史料館で照合し、一段落が大きく抜け落ちていたと知ったときは冷や汗が出ました。

 

また、これは大きな声では言えませんが、著者が他人の著作権侵害をしていないかをチェックするのも、校閲の役割です。引用文と著者の文章は明確に分けて表現するのは鉄則で、それを疎かにすると、裁判沙汰になりかねません。

故意にではなくても、かつてメモしておいた他人の文章を自分の文章だと思い込むこともあります。このあたりになると、校正者よりも、著者と長年お付き合いしてきた編集者のほうが強いかも知れません。「この文章、先生の文体と少し違うな」といった勘が働くからです。

 

いずれにしても、編集者と校正者の何重ものチェックを経て、単行本や雑誌は世に出て行きます。

年々無料の情報サイトが増えていく中で、いまだに多くの読者がお金を払って単行本や雑誌を求めてくださるのは、そうした地味で、表には出ない苦労が支えているのです。

 

 

(良本和惠)