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©山崎エリナ『Civil Engineers土木の肖像』より

 

これまでの工事現場写真集の対極を行く写真集

 

『Civil Engineers(シビルエンジニアーズ)土木の肖像』は、これまでの建設現場写真集とは違う、むしろ対極にある写真集と言えます。

建設現場の写真集は他の写真家さんによって何冊も発刊されていますが、それらは重機や構造物、夜景を捉えたもので(それはそれで素敵ですが)、そこには働く人々の存在や気配はなく、あるのは無機質な美しさです。

しかし山崎エリナさんが捉えたのは、他の写真家がフレームから排除した「働く人」でした。

 

見えない世界を描き出す

 

山崎さんと建設現場との出会いは、一昨年、福島の建設会社・寿建設の森崎英五朗社長に道路の補修現場(インフラメンテナンスの現場)の撮影を依頼されたことに始まります。

初めて入った撮影は国道沿いの草刈りでした。10年以上前から山崎さんと仕事をしてきた私ですが、「草刈りに感動した」と聞いたときには、「えっ、草刈りのどこに?」と聞き返したくらいです。草刈りが写真の作品になるとは想像できなかったからです。

山崎さんは、草刈り作業にいそしむ人々の洗練された動きやチームワークといった目に見えない世界を捉えたのです。被写体の奥にあるものを素直に感じ取り、描き出そうとするところが山崎さんのすごいところです。

 

また、何の先入観なく対象に近づいていくところなどは、もう才能のレベルです。

たとえば道路補修の現場は、道路に入った数十センチから数メートルの亀裂を、片側交通などの規制をかけながら、いかに短時間に効率よく補修するかが問われる世界です。そこには大きな重機もありません。ほとんどの人は、絵にならないと思うでしょう。

ところが山崎さんは「すごい~」と言いながら、カメラを向けていくのです。

そうして仕上げた作品には、人々が固まって作業する姿が美しく描かれています。

 

HP朝靄

©山崎エリナ 写真集『インフラメンテナンス』より

やがてこれらの作品は話題となり、各地での写真展、そして写真集『インフラメンテナンス』に結実していったわけですが、この一連の活動に対して、インフラメンテナンス大賞優秀賞を国土交通省から授与されています。

トンネル、橋梁、国道など、高度成長時代に一気に作られた道路インフラが今では老朽化し、どこもかしこも悲鳴を上げています。にもかかわらず、予算も人材も確保できていないのが現状です。そんな状況に『インフラメンテナンス』は、写真の力で風穴をあけようとしています。

 

ふるさとを守る人々の表情や姿を描く

 

山崎さんが次に選んだ現場が、『Civil Engineers土木の肖像』の現場を提供してくださった、新潟に本社を置く建設会社・小野組さん(小野貴史社長)です。

小野組は、建設業とは社会基盤を支え、人々の日常を守る重大な仕事であるとの誇りをもって、本業はもちろんのこと、人材育成や地域の活性化に力を注いでおられる素晴らしい企業です。

 

ここでの撮影を山崎さんはこう話してくれました。

「今度の撮影現場が、また素晴らしいんです。人柄がにじみ出るような表情もいいし、風土の中で働く姿が1枚の絵画作品のようで…今回の写真集では、働く人々そのものに焦点を当ててみたい」

そのようなわけで、『Civil Engineers土木の肖像』は、作業の意義や解説文をあえて入れない芸術作品集となりました。(モノクロ写真を主としています)

 

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©山崎エリナ『Civil Engineers土木の肖像』より

 

呼吸を合わせて、被写体の内面に入り込む

 

人物を撮影するのはベテランの写真家さんでも難しい世界です。ジッと構えて、シャッターチャンス(良い表情、味のある表情)をひたすら待ちます。

ところが山崎さんは構えて待つこともせず、「こちらを向いて」とか「もう少し微笑んで」といった要求もしません。真剣に作業をされている方々の邪魔をしないように、むしろ呼吸を合わせて、シャッターを切り続けます。

 

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©山崎エリナ『Civil Engineers土木の肖像』より

 

山崎さんが、働く人々に「誇り」や「熱量」を感じ取ったのは、呼吸を合わせ、一体となって追い続けるうちに、被写体の内側に入っていけたからでしょう。

 

写真集の中の人々は、作業に打ち込む真剣な表情のほかに、休憩時に見せる和やかな表情も多く収められています。そこには、はにかんだ笑顔はあっても、作った表情は見られません。

その中に、人柄や熱量、誇りがじんわりと映し出されています。

 

まるでショートストーリーが展開していくように

 

山崎エリナさんの写真集は、人の気配が残る路地裏や子供たちの遊ぶ姿を撮ったもの、パリのアパートで暮らす女性の心の内を撮ったもの、ふるさとへの帰省を撮ったものなど、1枚1枚の写真が物語の一場面のように展開していくといった特徴がありますが、『Civil Engineers土木の肖像』もそれに近いものがあります。

『Civil Engineers土木の肖像』は、12月の海からの寒風が吹き寄せる補修工事から始まり、1月、2月…とカレンダーをめくっていくように、現場で働く人のショートストーリーが季節とともに展開していくような構成となっています。

私たちの知らないところで暮らしを守ってくれている人々が存在することを、また、ひとつひとつの「土木の肖像」の中に、そこで働く人々のあたたかい思いや誇りを感じ取っていただけたら幸いです。

(書籍編集者 良本和惠)

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