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blog | 2017.05.31

色摩大使に聞く(1) 現代の世界最高の戦略理論家、エドワード・ルトワック

『日本の死活問題~国際法・国連・軍隊の真実』の発売に先立ちまして、著者の色摩力夫先生に本書の周辺についての興味深いお話をシリーズでお届けします。
なお、シリーズタイトルを「色摩大使に聞く」としましたが、「大使」は永久称号であることからこの名称を用いています。

第1回は、揺れ動く国際社会の中で注目を集めている戦略家エドワード・ルトワックについてです。

色摩力夫(しかま・りきを) 評論家、元チリ大使。外交官として9カ国に赴任し、20年以上を海外で過ごす。戦時国際法の第一人者。著書に『新戦争論(小室直樹氏との共著)』『国家権力の解剖』『国民のための戦争と平和の法(小室直樹氏との共著)』『国際連合という神話』など多数。

 

ホワイトハウスに影響を与える戦略家

 

──色摩先生の近刊『日本の死活問題』には、海外の戦略家たちがたくさん登場します。
先生は海外の書物はほとんど原書で読まれるそうですね。

 

たいてい原書で読みます。邦訳版が出るまで待てないし、そもそも出るのかさえ分かりませんからね。

それに、日本語に比べ欧文の方では、文字数が少なくて、読むのに骨が折れないんですよ。
(註、色摩先生は5カ国語を読めるそうです!)

 

──エドワード・ルトワックも今回のご著書に登場しますが、昨年発刊された邦訳版の『中国4.0 暴発する中華帝国』はいまだにベストセラーです。

 

ルトワックは、現代の世界最高の戦略理論家と言える人物です。

今や多くの日本人が彼の本を読むようになりましたが、私が最初に注目したのは2009年のことですが、“Strategy:the logic of war and peace (増補改訂版)”という本(邦訳『エドワード・ルトワックの戦略論』)でした。

そこで、すぐれた戦略論を展開していて驚きましたね。

 

──ルトワックは各国の国防のアドバイザー的な役割も果たしているそうですが、どんな人物なのですか?

 

彼は本来、軍事史が専門の学者です。いろんな国を転々として、イタリアで勉強してイギリスに渡り、イギリスで研究の骨格を築いたのちにアメリカに渡った。ワシントンで学術機関を立ち上げて、ホワイトハウスにもずいぶん影響力を与えているようです。

 

戦略理論家に育てた歴史的視点と生い立ち

 

──イタリア、イギリス、アメリカと言えば、覇権国家というキーワードが浮かびます。

 

ルトワックは、ローマ帝国やビザンティン帝国の国家戦略を分析した本も書いていて、ローマ帝国は読みましたが、これもすごい本でした。

戦略は現時点だけを見ていてはダメで、歴史的なものさしで考えることが不可欠なんです。

彼は、ルーマニアの奥地トランシルヴァニア地方でハンガリーに近い町で生まれています。祖国が小国だったため、周囲の国々や大国に翻弄されて、あちらの領土になったり、こちらの領土になったりして国籍が何度も変わっています。

そういう国で生まれ育ったからこそ、いかに生き延びるかという戦略的な発想が生まれたのかもしれません。

 

ルトワックが見た日本の真珠湾攻撃

 

──『日本の死活問題』では、真珠湾攻撃について、ルトワックが「奇襲攻撃にはコストがかかる」例として取り上げたことが書かれています。

 

その前に押さえておきたいのは、真珠湾攻撃に対してルーズベルト大統領が「卑怯なだまし討ち」と議会で述べて「屈辱の日」としました。

それを受けてか、多くの日本人も真珠湾攻撃は卑怯だったと思っているようです。

しかし、国際常識に照らせば、まったく違うんですね。ルーズベルトは、あんまり悔しいからそういう言葉で日本をののしっただけであって、国際法違反とはひとことも言ってない。

国際社会に根付いている慣習法に従えば、宣戦布告は任意であって、事実上の武力攻撃による戦争開始は違法でないのです。

なによりも、アメリカ自身、宣戦布告なき戦争をいくらでもやっているんです。

 

──ワシントンの日本大使館からの宣戦布告が遅れてしまったということもありますね。

 

しかし、それは国際常識からすると、じつは大した問題ではないのです。

 

さて、ルトワックは、真珠湾攻撃の例を挙げて、「奇襲攻撃にはコストが掛かる」と述べています。

真珠湾攻撃はそれなりの戦果を上げましたが、真珠湾には当日、肝心の航空母艦が一隻もいなかった。

事前に偵察すればわかったんだろうけれど、それをすれば敵に察知される危険があるので、しなかったのです。

そのことをもってルトワックは、日本は真珠湾に奇襲したにもかかわらず航空母艦が一隻もいなかったという大変なコストを払う結果になったと言ったのです。

 

──国際社会のルールや戦略家の分析を見ていくと、先の大戦における日本の歴史も違って見えてきますね。色摩先生、ありがとうございました。(聞き手・良本和惠)

 

『日本の死活問題』には海外の戦略家の視点がいくつも紹介されています。

また、第一部「戦時国際法と日本の敗戦」では、国際法の観点から一般に知られていない驚くべき事実を紹介しています。詳しくは、こちらから>>>

死活問題

この記事の作成者:良本和惠(よしもと・かずえ)
書籍編集者。1986年人文社会系の出版社で書籍編集者としてスタート。ビジネス系出版社で書籍部門編集長、雑誌系出版社で月刊誌副編集長をへて独立。2013年夫と共に株式会社グッドブックスを立ち上げる。趣味は草花や樹木を眺めること。