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blog | 2017.03.21

死の恐怖をどう乗り越えるか ~がん治療コーディネーター藤岡典代さんに聞く(10)

がんを告知されて、最も恐れるのは死ではないかと思います。

 その最もデリケートな問題を、現在がんで療養中の藤岡典代さんが自らの体験にもとづき語ってくださいました。

 

いちばんつらかった時期

 

──がんを告知され、つらかった時のことを以前にもうかがいましたが、
当然、死への恐怖にも襲われたと想像いたします。
そのあたりについてお話をしていただけますか?

 

私自身は肺にがんが見つかったときは3期から4期で、すでに肺に4リットルもの水が溜まっていました。水を抜かないことには治療にも入れないという期間がひと月あったのです。

この時期が精神的にいちばんつらかったですね。

 

それに、レントゲンで映し出された患部の写真を見て、腫瘍の大きさとか水の溜まり具合とか、ドクターに説明されなくても、だいたい進行状況が分かるわけです。
これまでさんざん患者さんの写真を見てきたわけですから。

 治療がうまくいかなくて坂道を転げ落ちるような状態になったら、あと数カ月で緩和ケアが必要になるのではないかとか、自分がこの世を去ることを考えなければいけないのかと。

でも、ちょっと待って、私にはまだ準備はできていない……と。

こんなふうに、神様と取引しているような、怖くて不安で、悶々とした日々を経験しました。

 

──それはどのくらいの期間続いたのでしょうか?

 

何とも表現できないようなつらい時期は1カ月ぐらい続きましたね。

 夜中にパッと目が覚めて、これから先どうなるんだろうと思いはじめたら眠れなくなったり、というのはしょっちゅうでした。

藤岡典代さん

感情を言葉にすることの大切さ

 

──そうした思いは、周りと共有するのは難しいのでしょうか?

 

死を身近に感じた人でないと分かることではないので、共有は難しいと思います。

 でも、私はそのことを言葉に出して伝えることは大事だと思いました。

怖いということを伝えたり、泣いたりするといった感情の表現はできるわけです。

感情というのは必要だからあると思うんです。
例えば、刃物でうっかり指を切ってしまったときに、痛みを感じなければ、指から血が流れていても、処置ができません。

痛いと感じるから、慌てて処置をするわけです。
それと一緒で、感情は傷口から血が出るようなもので、あふれ出たときに対処することが大事だと思うんです。

つまり、感情を出すことです。

私自身は、自分の感情に蓋をしないで、大泣きしました。

 

──人知れずではなく、信頼できる人に?

 

夫である院長(熊本・藤岡医院)に、怖いと言ってね。


だれしも、自分の感情を受け止めてくれる人、信頼できる人がいるはずです。だんなさんであったり、奥さんであったり。兄弟や友人かもしれません。


もしくは、医療者やカウンセラーでもいいと思うんです。そういう人に対して、いま自分がどうあるからつらいのだということを、吐き出すことが大事です。

 

人には立ち直る力がある

 

──感情を吐き出すことで恐怖や不安が少しずつ薄らいでいったという感じですか?

いえ、最初の1カ月に味わったような恐怖心は、それを乗り越えてからはなくなりました。

 

私はこれまでがんの患者さんと接して、立ち直っていくその姿を見ながら、なんてたくましいんだろうと思ってきたけれど、それが自分の中にもちゃんとあることを確認できたのです。

人間にはちゃんと立ち直る力があるのです。

最初のころの、自分はなぜこういう目に遭うのだろうという否認の状態から、ある程度、受容できるようになって、そこから立ち直っていこうという状況がやってきますね。

ただし、その後、恐怖心や不安がまったくなくなるかというと、そうではありません。

自分の体の調子による揺れはありますし、病院に行って、レントゲンやCTを撮ったり、腫瘍マーカーの数値を見せられると、一喜一憂することはあります。

 

──死の恐怖はなくなるわけではないのですね。

 

そう、なくなるわけではありません。

完治して、何年かして、もう大丈夫というところまで来ても、みんな怖いとおっしゃいます。

ですから死の恐怖は常にある。だけど、不思議なことですが、だからこそ生きていることに価値を感じるとおっしゃいます。私もそうです。

 

──日常に対する価値は、以前とは違いますか。

 

違いますね。毎日が一期一会の世界です。
そして、時間の大切さを身に染みて感じています。

患者さんたちも、病気になってそう感じるようになったとおっしゃっておられましたが、自分がこうなってみて、しみじみ実感しますね。

 

──貴重な体験をお話しいただき、心から感謝いたします。(聞き手・良本和惠)

 

藤岡典代(ふじおか・ふみよ)

薬剤師・心理カウンセラー。夫が院長を務める藤岡医院でがん治療コーディネーターとして、患者を心理面から支えてきた。医療の範疇を超えた事業活動をめざして、株式会社テトテトテを設立。料理家の本道佳子さんと共にがん患者と家族のために、病気との決別をおこなう「最期の晩餐・食事会」はメディアを通して注目を浴びる。

 

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藤岡靖也+藤岡典代著『最期の晩餐~がん治癒へのターニングポイント』

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この記事の作成者:良本和惠(よしもと・かずえ)
書籍編集者。1986年人文社会系の出版社で書籍編集者としてスタート。ビジネス系出版社で書籍部門編集長、雑誌系出版社で月刊誌副編集長をへて独立。2013年夫と共に株式会社グッドブックスを立ち上げる。趣味は草花や樹木を眺めること。