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blog | 2017.01.06

がん患者が人知れず味わうつらさ ~がん治療コーディネーター藤岡典代さんに聞く(2)

これまで多くの末期がん患者さんに寄り添ってきた藤岡典代さんは、自らががんを告知されて、人に言えないつらさを体験したと言います。

がんの患者さんがどんなことに困り、それをどう打開していけばよいのか、周りの人はどんなことに配慮すべきかをうかがいました。

 

がん患者が人知れず味わうつらさ

 

──がんになった人にしか分からないつらさがあると思うのですが、どんなことを経験なさいましたか?

 

実際に患者になってみてつくづく感じたのは、自分のつらさを本当は周りの人にわかってほしいんだけれど、なかなか言い出せないし、人知れず我慢してしまうということが生じるんです。

 

たとえば、がんを宣告されると、数限りない医療行為が延々と続きます。どれだけ針を刺せばいいの?と思うぐらい、採血だとか注射をされるし、ちょっとした痛みなどは日常茶飯に経験するわけです。

そのほかにも、待合室でずっと待っていなければならない苦痛であったり、ひとつひとつは小さな事だから、心配をかけたくないし、あえて口に出そうとは思わないのです。

 

私の場合は、胸水がたまって、脇に穴を開けて抜いたのですが、抜いた後も、その穴から次々に漏れ出してくるんです。すると、夜中に何度も看護師さんを呼んで着替えなければならない。

痛みや苦しみに加えて、人に手伝ってもらわないと何もできない情けなさとか、トイレに行っても今まで通りにいかないもどかしさ、そんなちょっとしたことがけっこう苦痛でしたね。

藤岡典代さん

 

持って行きようのない気持ちがあるときプチッと切れてしまう

 

──人知れず味わう苦痛ですね。当人になってみないと分からないつらさですね。

 

そうした小さな苦痛を何度も乗り越えて、患者さんは逞しくなっていくんだなぁと感じます。

夜中に水が飲みたいと思っても、看護師さんを呼ぶのは申し訳ないと思って朝まで我慢してすごすとか、そんなことはしょっちゅうでした。

 

ただ、そうした持って行きようのない気持ちが、あるとき何かの拍子にプチッと切れるようなことが起きるわけです。

 

事の始まりは、看護師さんが注射の針を何度も刺して、それがとても痛かったけれども、痛いと言えず我慢したとか、そんな小さな経験だったりするんですね。

私自身も、夜に全然眠れなくなったり、眠れるようになっても夜中にちょこちょこ目が覚めたり。。。では昼に眠いかと言ったら眠くない。交感神経がいつも高ぶっている状態でした。それが1カ月も2カ月も続くんです。

そういう心身の状態のときに、例えば夫の何気ない一言でそれまで鬱積していたものが爆発して、家族とのコミュニケーションがうまく取れなくなるといったことが起きます。

 

患者も周囲も楽になる、困ったときの対応のしかた

 

──そうなる前に、患者ご本人、それから周りの人間はどのように対応したらいいのでしょうか?

 

夫婦や親子など、親密な関係にありがちなのが、「わかっているはず」「わかるべき」という思い込みです。

近くにいればこそ、対話は大切で、相手に依頼したいことがあれば、具体的に伝えることです。

例えば、サポーターである妻が患者である夫に食事について伝えたいとき、

「私から見て、最近、野菜の摂取が足りないように感じます。ビタミン、ミネラルが不足しているのではないかと心配です。もう少し、野菜を食べて欲しいのだけれど、そうしてくれますか?」といった具合に語りかけます。

 

この時のポイントは、4つです。

1.批判をせず、自分が観察したことを話す。 (「私から見て~」)

2.自分の感情を伝える。 (「心配です」など)

3.自分の欲求を伝える。 (「~してほしい」)

4.相手に依頼する。 (「そうしてもらえますか?」)

そして、もうひとつ大切なのが、このように伝えても答えが「ノー」であれば、それを許容することです。今はわかってくれなくても、相手が必要とするタイミングになれば分かってくれると信頼するのです。これが真の理解につながります。

 

がんを告知されると、ほとんどの方が意気消沈されます。だからこそ、心理面でのケアが必要ですし、患者本人ができることもたくさんあります。

知っているかどうかによって、その後の状態がずいぶん違ってきますので、次回以降、それをお話しますね。

 

──どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。

 

藤岡典代(ふじおか・ふみよ)

薬剤師・心理カウンセラー。夫が院長を務める藤岡医院でがん治療コーディネーターとして、患者を心理面から支えてきた。医療の範疇を超えた事業活動をめざして、株式会社テトテトテを設立。料理家の本道佳子さんと共にがん患者と家族のために、病気との決別をおこなう「最期の晩餐・食事会」はメディアを通して注目を浴びる。医院の隣にカフェとお菓子の工房「しましまの木」をオープン、がん患者のみならず、地域の憩いの場として人気が高い。

 

☆  ☆  ☆

藤岡靖也+藤岡典代著『最期の晩餐~がん治癒へのターニングポイント』

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この記事の作成者:良本和惠(よしもと・かずえ)
書籍編集者。1986年人文社会系の出版社で書籍編集者としてスタート。ビジネス系出版社で書籍部門編集長、雑誌系出版社で月刊誌副編集長をへて独立。2013年夫と共に株式会社グッドブックスを立ち上げる。趣味は草花や樹木を眺めること。