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blog | 2021.05.10
永遠の循環を担う電気炉製鋼の世界①
鉄が再生していく“ロマン”
北越メタル株式会社 代表取締役社長 棚橋 章(たなはし・あきら)
このほど上梓された山崎エリナ撮影写真集『鉄に生きる サスティナブルメタル電気炉製鋼の世界』。その撮影現場を提供、写真解説を執筆されるなど多大なご協力いただいた北越メタル株式会社の棚橋章社長に、電気炉製鋼の魅力や世界に誇る技術力について2回にわたって聞く──。
目には見えないけれど、身近にある「鉄」
──このたびは北越メタルさんの電気炉製鋼の現場が写真集『鉄に生きる』となったわけですが、
写真集の中で特に印象的なのは、燃え上がる炎と、ドロドロに溶けた鉄が工程によって見せてくれるさまざまな表情です。まるで生き物のようだと感じました。
1600度の溶鉱炉で溶けた鉄は、まさに生き物ですよ。われわれ鉄鋼マンにとっては、怖い生き物でもあり、鉄を少しでも甘く見ると襲ってきて災害に繋がるので、油断ならない存在なんです。
──鉄鋼マンにとって油断のならない存在の鉄。しかし、わたしたち一般人にとって、日常生活の中で鉄を探しても、意外にも見る機会がない気がします。
我々の世界では、鉄のことを鉄鋼とか鋼(はがね)と呼んでいますが、おっしゃるように、日常生活の中で目にすることはあまりありませんよね。
お住まいのマンションや職場のビルにも鉄骨や鉄筋が入っているけれど、コンクリートや外壁材に覆われて、目にすることはできない。しかしビルや高層マンションが少々の地震でもびくともしないのは、その中に硬くて強い鋼が入っているからなのです。
──何気なく渡っている橋の橋脚やトンネルにも鉄が入って安全を確保してくれているのですね。つまり、コンクリートのあるところ鉄ありと?
そう考えていいですね。それなりの大きさの構造物になると、コンクリートの中には必ず鉄が入っています。日本のように地震が頻発するような国では特に、コンクリートの中の鉄が支えていると言って過言ではありません。
──しかし鉄には「錆びるもの」というイメージがつきまといます。
あれは鉄特有の赤サビです。酸素にふれる表面から浸食されていけば、やがて機能を果たせなくなりますが、コンクリートの中では酸素は遮断されていますし、ほとんどが防錆剤でコーティングされているので、錆びない。仮にビルやマンションが築50年くらいで取り壊しになったとしても、それは鉄鋼がネックではなくて、他の所が痛んでメンテナンスに費用がかかるとか、空間をもっと広くしたいといった理由からです。
電気炉製鋼とは?
──製鉄といえば、高い煙突がそびえる巨大な工場でおこなうものと思っていましたが、あれは鉄鉱石を原料に鉄をつくる高炉法というやり方なんですね。
そうです。われわれ電気炉メーカーでは、原料は鉄鉱石ではなく、鉄スクラップ=鉄クズです。
例えば、ビルを解体すると、専門業者がダンプで回収し、鉄とコンクリート、その他に分けて、鉄をリサイクルしやすいように切って収めてくれます。また、スチール缶は缶プレスという機械で圧縮してサイコロ状にして運んでくれます。
また、工場内で出る旋盤クズもあるわけで、鉄スクラップと言っても、いかにもゴミといったものもあれば、きれいなものもあるわけです。
捨てればゴミの鉄を元に、工夫をしながら新しい鉄製品を作りだす。それが、われわれ電気炉メーカーの醍醐味であり、ロマンなんです。
──電気炉では、鉄を溶かすのにどのように電気が使われているのでしょうか?
60トンもの鉄スクラップが投入された電気炉内に、人造黒鉛電極(黒鉛)といって、直径60センチくらいの鉛筆の芯のような棒を3本差し込みます。そこに電気を流し、それと鉄の間にアークを飛ばします。
アークというのは、コンセントを抜く瞬間に出る青白い光で、雷みたいなものです。電気が通電するときにある距離を置くと、アーク放電が始まる。この時の温度が約3000度で、鉄は一気に溶けるわけです。このアーク熱に、酸素(助燃剤)を吹き込んで鉄を溶かします。
──電気炉の中では雷みたいな光が踊り、すさまじい光景が繰り広げられているのですね。
永遠にリサイクルできる素材
──しかし、鉄スクラップからの製鋼は、品質に問題が生じることはありませんか?
鉄スクラップの山をご覧になると、建築の端材や機械を潰したものにはゴムやウレタンなどがくっついていたりしていますから、そう思われるのも無理がありません。
また、鉄製品には強度を持たせるために炭素やマンガンなどの合金鉄が混ざっています。当然、鉄スクラップにもそれが含まれていて、そこから鉄を取り出さなければならないわけです。
まずは、電気炉という大きな釜に鉄スクラップを入れて、アーク放電の力で一気に1600度まで温度を上げて溶かしていくわけですが、そのとき濃度の高い酸素を吹き込むんです。すると鋼材の中に入っていたマンガンやケイ素、炭素が酸化されて、軽くなって浮いてきます。
──熱と酸素の力で、不純物が分離するわけですね。
そうです。分離した不純物はスラグと言って、冷えると石になります。この石は道路の路盤材として活用することが多いですね。
また、鉄スクラップは、旋盤クズ、自動車の廃車、飲料後のスチール缶など、Aスクラップ、Bスクラップ……と種類分けし、溶かした後は、1ヒートごとに番号を付けて、スクラップの配分や化学成分などを記録し、履歴が追えるようにしているので、万が一にも対応できるんです。
──つまり、品質には問題がないと。
ええ。電気炉内で鉄スクラップを溶かしたあとの精錬工程で、スクラップに含まれていたイオウやリンなどの不純物を取り除くことと、逆に鋼を強くするためにマンガンなどを添加します。
鉄よりも酸化しづらい銅などは、「このスクラップにはほとんどそれらが入っていない」、「このスクラップにはそこそこ入っている」といったことを過去の経験値から予測して、うまくブレンドして溶かし込みます。ここは技術力が出るところです。
そうして品質に何ら問題がない鉄鋼が出来上がってくるのです。(次回につづく)
永遠の循環を担う電気炉製鋼の世界②「世界一をささえる“現場力”」は、こちらから>>>
山崎エリナ撮影『鉄に生きる サスティナブルメタル電気炉製鋼の世界』
定価 2420円(本体2200円+税)
書店、ネット書店、オンラインショップで販売中。
amazonは、こちらから>>>
詳しい内容は、こちらから>>>
北越メタル株式会社のHPは、こちらから>>>
※令和3年(2021年)5月1日から5月31日まで、新潟県の14駅にて、本写真集の電子広告が流れています。
- この記事の作成者:良本和惠(よしもと・かずえ)
- 書籍編集者。1986年人文社会系の出版社で書籍編集者としてスタート。ビジネス系出版社で書籍部門編集長、雑誌系出版社で月刊誌副編集長をへて独立。2013年夫と共に株式会社グッドブックスを立ち上げる。趣味は草花や樹木を眺めること。